――本日営業

以下、『SHI-NO ―シノ―愛の証明』ならびに「Fate/hollow ataraxia」のネタバレ(stay nightの方も)を含みます、というかパクりです。題追加。


魔法少女マジカル志乃タン」


 コンコンという軽やかなノックの音が聞こえて、僕はドアへと視線を向けた。
「志乃ちゃん?」
 僕は返事の代わりに、その名前を読んだ。
 実を言うと、あの事件――ここで語るべきことでもない、というより語りたくない、というより思い出したくもない、というより無かったことにならないだろうか、死にたい、とずっと考えていry――の後、彼女の顔を見ていなかった。
 いつものように来てくれるのではないかと期待するだけ無駄というか、もう二度と……。
 そう嘆いた僕に、先輩――鴻池キララ先輩――は言った。
『女の子には色々と心構えが必要なんよ』
 どういう意味ですか? と問うまでもなく、先輩なら、二ヒヒと悪魔じみた顔で笑って……それは恐ろしいことであるものの、志乃ちゃんに見られるよりは、迷惑を被るのが僕だけなのだから自業自得なことで……とにかく、ようやくその『心構え』を済ませ、顔を見せてくれに来たのか、とそんなことは万が一にも愛想も何も尽かしてもう二度と……、藁でもなんでもいいから、と一縷の望みをかけたのだけれど―――返ってきたのは、別の声だった。
「ごめんなさい。わたしです」
 ドアを開け、入ってきたのは、銀色の髪を持つ少女。
 涼風真白ちゃんだった。
「―――って、えぇっ!?」
 彼女が来てくれたことに驚きを禁じ得なかった。一応の連絡も、何の前フリもなくいつものように唐突に現れ、それさえ予想していなかったのだけど、それ以上に、『それ』は予想していなかった。
 思わず大きな声を出してしまって、傷口――心の――に鋭い痛みが走る。
 悶絶し、涙を浮かべ――心の中では号泣――ながら……それでも、僕は聞かずにはいられなかった。
「一つ……質問して良いかな?」
「もちろん。そういえば、前にもこういう事、ありましたね」
 そう――状況の原因、条件は異なる――なのだが、前のときよりもショックは格段に大きかった。
 何せ、何せ……。
「どうして……魔法少女なの?」
 彼女の着ている服。濃い赤の上着に、淡い桃のちょっと短めのスカート、そして真っ黒な猫耳、「あっ、しっぽもありますよ」……真っ黒なしっぽ。彼女の装束は、紛れも無く、間違いようも無く、魔法少女、しかもカレイドルビーの服だった。
 もちろん、真白ちゃんがカレイドルビーだという事ではない。だって彼女は、まだ中学生だ。もしそうなのだとしたら、そうだとしなくても、急いで然るべき機関に連絡しなければならない大問題――著作権など――である。だから、彼女のそれは…………つまるところも何も、世間一般で言うコスプレだった。コスプレ以外の何ものでもない。だって、魔法少女カレイドルビーは、ゲームのキャラクタなのだから。どうして彼女がそんな格好をしているのか、といえばどうせ先輩から、いや彼女の場合は自分で調べたのかもしれないが、あの事件の顛末を知ったのだろう。
「喜ぶかな、と思いまして」
「…………」
 ニコリと微笑み、ポーズまでとってみせる恐るべき中学生のバイタリティ。
 ま、まぁここだけの話、も何も、カレイドルビーは嫌いではない。むしろ好きです、いや大好きです。色々と、説明しがたい魅力を感じるのは事実だ。けど、幾らなんでも、中身が中学生――第3期……どうして、小学3年生から中学生になるんだ、返せよ、萌え燃えを返せよ(僕は、第1期も2期も見ていないので良く分かりません)――じゃいまいちパッとしないように思う。それに、やはり肝心なものがない。
「気に入りませんでした? あ、大丈夫ですよ、わたしは前フリですから」
 いや、断じてそういう問題、えっ!? ということは、まさか……。
「それでは、本命に登場してもらいましょう」
 僕は息を整えながら、ってできるわけもなく、興奮したまま、自分の予測が正しかったことを確信していた。
 そして、ドアが開いた。
「お待たせ! 魔法少女カレイドルビー、ここに誕生! ―――どうシェロ?」
「…………」
「ちょ、ちょっと、セリフがそのままですっ!」
「あ〜」
「あ〜、じゃありませんっ! ってあれ!?」
「……嘘吐き」
「わたしは嘘吐きですから、って、えっ!? あれっ!?」
 真白ちゃんは、慌てた様子で首をかしげている。そんな真白ちゃんは新鮮で、見れたことは素直に楽しいと思うのだけれど、いかんせん、入ってきたのは―――
「ウチはアカンなぁ。ホンマ、肝心な時に役立たずやわ」
 と今はへこんでいる――少なくとも僕にはそう見える――先輩だった。
「ちょっとっ! 何やってるんですかっ!」
 真白ちゃんは現状を把握したようで、先輩を押して部屋から出て行った。何やら言い争っている声が聞こえる。
 やがて、声が聞こえなくなった頃、小さなノックの音。
 それが合図だった。
「はい……どうぞ」
 僅かに遅れて、ドアが開く。
 その向こうにあったのは、まさしく、真にまさしく僕が待っていた少女の姿だった。
 彼女は視線を背けながら、入ってくる。
 そして、先ほどまで真白ちゃん、先輩がいた場所まで来た。
「…………」
「…………」
 お互い、無言だった。
 感情のない顔で、感情を意識的に消している顔で、志乃ちゃんは、僕を見ない。
 見ようとしない、と分かって苦笑しようとしたら、彼女は顔を上げた。
「はぁい、お待たせみんな! 愛と正義の執行者、カレイドルビーのプリズムメイクがはじまるわ、よ……?」
 もう、我慢できませんでした―――

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 その後、僕が意識を失う直前に聞いたのは……。
『―――ありがとうございました。あなたのおかげで、ようやく私も作られた意味を果たせそうです』
 という、志乃ちゃんの手に握られていたカレイドステッキ――マジカルルビー――の言葉だった。

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「はぁーい、バッドエンド/デッドエンドな貴方、ようこそ、ドジっ娘道場へ! そこっ、『娘?』って突っ込まないっ! あー、もうダメですねぇー、こんなことで死んじゃうなんて……お姉さんは悲しいです、よよよ……。さて、そんな貴方には、攻略のためのヒントを差し上げましょう。えーと、確かこのカバンの中に……あれっ!? ちょ、何で、ないのよっ!? ……あ、あはははは……ということで、さようならー、次はがんばってねぇー」

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「って、ちょっと待ったぁー。道場に出てるということは、私は攻略対象ではない!? どういこうとですかーーー! っていうか、名前が出てませんよ、ドジっ娘、としか、あ、娘というのは嬉しいのですが……ってそういうことではなくて、ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 何、勝手にフェードアウトしていってるんですかー! えっ!? 道場を書こうと思っていたのに、家で書くの忘れてて、本持ってきてないから、名前とかどんなキャラだったか分からない、ただドジということだけは分かっている、って、ちょっとっ!? そんなの、読んだ人しか、読んだ人さえ分からないかもしれないじゃないですかっ! ねぇ、待って……きゃん」
 こけた。

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―――end, end, end.
《BGM:「エミヤ#2」「Harmonies poetiques et religieuses」by Franz Liszt