――本日営業

件のボールペン、適当にそこら辺の紙でないものに書いてみたのだけれど、僕には必要なさそうだ。書けるつもりで書いていたのでオチに困った。
修正加。


「どうだ?」
「駄目です、まだ見つかりません」
「く……」
「どうしますか? このまま続けますか?」
「いい加減……このままでは本当に埒が明かない。奴らは連絡を取り合っているのだろう?」
「はい、確認はしていません。できませんというのが正しいですが、連絡を取り合っていることは確実です。そうでなければ」
「ああ、そうでなければ今の状況はありえない」
「はい」
「くそっ……」
「…………」



「いやぁ、楽勝だったねぇ」
「ええ、このボールペンのおかげですけれど」
「ねぇ、凄いよねぇ、これぇ」
「ええ、今後も私たちには欠かせないものとなります」
「そうだねぇ」
「ええ、プラスチックに限らず、今まで簡単には文字を書くことのできなかった、書こうとはしなかった様々なものに対してはっきりと書くことができ、簡単にこするだけで消すことができるというのは、特長です」
「ねぇ」
「ええ」



「どこにも痕跡は残っていないのか?」
「はい、特にメモなどは見つかっておりません」
「環境に制約があるのに、どうやって連絡を取り合っているというのだ」
「……ただ、気になる点が」
「何だ?」
「はい」



「いやぁ、駄目だったねぇ」
「ええ、このボールペンのせいですけれど」
「ねぇ、酷いよねぇ、これぇ」
「ええ、今後は私たちには必要のないものとなります」
「そうだねぇ」
「ええ、思っていた以上に、はるかに使い勝手が悪く、紙に書いた後にはプラスチックになかなか書けませんし、ティッシュの袋には書きやすいですがこすっても消えませんし、特長だと思っていたのは、単なる特徴でした」



「先輩、どうですか?」
「うんうん、なるほどなー……ではなく、無機質ではあるものの血が通っているかのように視界を彩るグラスに注がれた液体を、砕波音に身を委ねた後に味わう、そんな私に、有機質であるはずなのに完全な真空にいるかのように視線を注いでいる貴方に、あなたに、あ、あぁ! はぁはぁ、はぁ……、いけない、このままではいけないわ! ああ、ダメ! いけない。うん、ダメ、全て消えてしまった。そう、私はここにいるのに。ね、0と1、あなたはどこにいますか、現実と仮想、点と線、時間と空間、よくあるテーマだけれど、誰も理解していない、ううん、理解なんでできるはずがない。だって、考えたときにしか存在しないのに、考えたらそこには何もなくて、どこにもそれはないの。気持ち悪い。気持ち悪いのよ。うぅ……吐きそう……こんなお題にするんじゃ――」



「先輩、どうですか?」
「何これ?」
「この前読んだ本にですね、先輩と同じように紙を食べる人がヒロインの作品があったんですよ。その人は、紙に書かれた物語を味わう、という人で、それで、先輩にも、授業の内容をとったノートではなく、物語はどうかな、と思いまして」
「…………」
「先輩?」
「私は夢を見ているのかしら」
「先輩?」
「そう、きっとそうね」
「先輩?」
「おやすみなさい――」



 目を覚ますと、ヤギと目が合った。ヤギは彼女だった。そう、彼女は僕の特別な存在。僕が選んだのは彼女なんだ―――