――本日営業

題が決まったから、書いてみよう、と。


「オカルティックな君を包む煮沸した血液から零れるロジスティックな後悔」


 ――思えば、あの時からだっただろうか。心が君から離れていったのは。決定的に離れてしまったのは。


 いつものように、舌を交わし、立ち上る臭いに翻弄されながら先に進めない僕を咎めることもなく、微笑んで、去っていく君の後姿は、微塵も未練を感じさせなかった。
 火傷した後のように何も感じることができず、ただ違和感の残る舌。僕は君を求めていなかったのだろうか。君が僕を求めていないことは分かりきっていたけれど。
 思い返せば、長いもので、もう一年の付き合いになるのですね。二人の記念日は僕だけが知っていればいいもので、君を縛るようなことはしたくなかった。
 君の隣でなくても、僕を世界の一部にでも捉えてくれればそれだけでよかった。僕は君に捕らえられたのだから。


 ――君との接点がなくなるようなことは考えたくもなかった。だから、君の邪魔になるようなことはしたくなかった。


 外で会うことは避けていた。君を僕に依存させたくなかったから。僕は君に依存していたけれど。
 出会えば、まず交わす舌。あれほど、僕の心を揺さぶっていた君の存在を、僕の心の中だけに閉じ込めることができたら、どれほど幸せだろうか、と僕は君と会うことを二人だけのときにした。それが二人の約束、というように。
 外に出なければよかった。閉じこもっていればよかった。君だけを感じていればよかったのに。
 傷が生まれてしまった。心にも体にも、傷が、消えることのない傷が生まれてしまった。舌でなめても何も感じることはできなかった。自覚した倒錯は、同時に取り返すことの出来ないことを理解させた。
 後悔して、始まった。始めることができた。


 ――どこで、間違えたのだろう。失敗したのだろう。


 傷をなめる。


 ――いつ、間違えたのだろう。失敗したのだろう。


 傷をなめる。


 ――間違えてなどいなかったのだろうか。失敗などしていなかったのだろうか。


 腐臭と硝煙、そして焼ける臭い。僕は傷をなめ続けた。




いつものように、解説を。登場人物は二人(一行×5と七行×2+一行×3ブラウザによって変わるようなので、書き直します……うまく書けないので文のはじめに、「――」を追加。それぞれの独白。あー、もういいや、視点は一人でも(笑)。登場人物は二人ということで。まあ、人でなくてもいいか)。男×女でも男×男でも。
題名は七行の方から。オカル(ティック)⇒男狩る、煮沸した血液⇒燃える体、ロジスティック⇒飽和、という感じ。