――本日営業
こちらの続き。
5.
今日も今日とて、放課後、後輩と後輩の家に向かう。
未遂に終わった前回の教訓を活かすことができるのか、できないのか、それが問題だ、というわけでもなく、ただ朝起きてトイレに行くように、生理現象のように私は後輩の家に入る。
「お帰りー、兄さーん」
と、小走りにやってくる少女。今日は在宅のようだ。むしろ、この時点で遭遇しなかった前回が稀少だったのだろう。惜しいことをした、と後悔を少ししておこう。
「ただいま、サン」
「また、あなたですか」
後輩の言葉を無視して、私に訝しげな視線を向けてくる。
「また、私です」
「そうですか」
「ええ」
「今日は、いつごろお帰りになるのでしょうか?」
「そうですね、んー、適当に帰ります」
「そうですか」
「ええ」
適当に言葉を交わす。私は、猫に香辛料、犬に玉ねぎがダメなように、互換もだけれど、猫が嫌いだから、猫かぶり、とは言いたくない、なんということはなく、彼女の前では猫をかぶっている。
「じゃあ、僕たち部屋にいるから」
「……ごゆっくり」
「はい、おじゃまします」
私は、クッションを手にしながら、適当に座る。後輩も、部屋のドアを閉めずに、パソコンの前に座る。パソコンは起動しないようだ。
「今日は、パソコンをやらないのか?」
「パソコンですか、そうですね、特に気になることもないので」
「そうか」
「はい」
さて、今日は何をして過ごそうか。なんて考えるまでもない。何も考えずにだらだらと過ごしても良い、だいたいそうなのだけれど。ふむ、今日は妹もいることだし……。
「後輩」
「何ですか、先輩?」
「やらないか?」
「ふぇ?」
「だから、やらないか?」
「はわ!?」
「なぁ、後輩?」
「はわわ?」
「後輩?」
「はわ!? はわわわわ?」
「私は、覚悟を決めてきたんだ」
「はわ!?」
「今日こそは……」
「はわわ?」
「今日こそは、遂げさせてもらうぞ。妹がいようが知ったことか。むしろ見せ付けてやればいいんだ」
「はわ!?」
「よし、では始めよう」
「はわわ?」
「いいか?」
「……はい」
「本当にいいんだな?」
「はい……断っても、無理やり……」
「そうだな、無理やりにでもやってやる」
「じゃあ、もういいです。さっさとやりましょう」
「よし、いくぞ」
「はい。優しくしてくださいね?」
「もちろん、優しくしてやる」
「お願いします」
「ああ」
「んー」
「ほら」
「んー」
「もっと」
「んー」
「まだまだ」
「んー」
「まだイけるだろ」
「んー」
「んー!」
「んー!」
「んー!」
「んー!」
「んー!」
「んー!」
「「んー!」」
バンッ!
「な、なななにをやっていらっしゃるのかなぁー」
「「えびぃばでぃパッション!」」
「ねえ、なにやってるの?」
「「そうだね、プロテインだね」」
「「「パッションゲーム!」」」
「パッション、だーれだ?」
「はい。じゃあ、二番が『やらやらバンバン』」
「えー、そんなのできませんよー」
「んー! んー! んーーー!」
6.
「後輩、本当なのか?」
「はい、本当です」
「嘘偽りなく?」
「はい、嘘偽りなく」
「本当に私と……」
「はい、先輩と」
「そうか……」
「はい」
「…………」
「それじゃあ、お願いします」
「…………」
今日も今日とて、放課後、後輩の教室に向かう。もうすっかり恒例となった、歓声が私を迎える。後輩は相変わらず、隣のクラスメイトの話を聞いているのか聞いていないのか、席に座り、何とはなしにしている。ただ以前とは違い、心持ち、表情は柔らかい。その原因も明らかである。後輩には彼女ができたから。あれだけ、ハーレムを形成し、どこまで溺れるのか、と一喜一憂させていたのに、一度決着してしまえばこんなものか。納得のいかない、諸氏もいることだろう。
――どうして彼女と付き合っているのか?
――いや、正確にはどうして彼女と付き合えるのか?
――いや、厳密には本当に付き合っているのか?
これが視点に反映される。彼女らはどこから見ているのだろう。私もどこから見ているのだろう。そう、私も傍観者。
後輩の前には、無表情巫女。
後輩から、彼女と付き合うと聞いたとき、私は泣かなかった。泣きたくても泣けなかったのか、意地でも泣きたくなかったのか。後輩から、私と距離を置くと言われ、私は、ああ、そうなんだ、と思い、ただ受け入れるしかなく、残ったものは、行き場のないパッションだけ。パッション屋良の浸透には成功しても、私のパッションは逃げ場さえ失って、このままくすぶり続けるのだろうか。
昨日はいつだって幸せで今日はいつだって不確かで、明日はいつだって残酷だ。
だから、私は夢を見る。
――This is BAD END.
――The beginning of the second championship.
以下予告。
――昨日の夢は今日の希望であり、明日の現実である。
そして開かれる、「第二回 後輩萌やし選手権」。
「《第一回優勝、ただし夢の中》かつ《夢見心地、ただし悪夢》かつ《夢から醒めた、ただし今度は現実で》み・た・い・なーっ!」
「いつかはやると思ってました」
乞うご期待?