――本日営業

マテゴ、こちらの続きですが、読まなくても問題ありません。いつものように、まずは原文より勝手にいただいて。


「第二回 後輩萌やし選手権」


1.
「萌えますか、式見蛍?」
「…………」
「私、神無深螺の制服姿は、『萌える』のかと訊いているのです、式見蛍」
「…………」
 ……は? ……ちょっと待て。今、どこから話が繋がった?
 僕が記憶しているこの場面最初のイメージは、目の前で深螺さんが、「萌えますか、式見蛍?」と首を傾げた、その瞬間だ。
 まさに、脈絡ない。
 ないけれど、今いるのは、どうやら僕の部屋だ。どうやらというのもおかしいが、ここに至るまでの記憶がないのだから仕方ない。
 ないけれど、僕の家にいることは思い当たるのだけれど、目の前の無表情巫女が当然のように僕にいつものトーンで質問してくるものだから、まるで、僕がへたれみたいな雰囲気になっている。
「式見蛍……無視は感心しませんね」
「あ、いや……えと」
「似合いますか、制服。私に」
「似合っています……うん、似合っているよな? 綺麗だし、性格的にも似合っているような……」
「綺麗なのですか?」
「それはまあ……綺麗だと思います」
「萌えますか?」
「……あの、深螺さん。さっきからその、どうして『萌え』にこだわっていらっしゃるのでしょうか」
 他に訊きたいことはないので、とりあえずも何もそこを訊ねる。まあ、また同じ理由だろうけれど。……そもそも僕、布団に入って、起きたらこうなってなかったか? 夜這い? 朝駆け? 夢? 夢か? 僕のパッションが具現化したのか? だって、まだそんなつもりの行動は起こしてなかったはずだ。
 制服姿深螺さんは、裾をつまんで相変わらずの無表情で答えてきた。
「父が……」
「お父さん?」
「『彼氏彼女の関係になったのだから、やることをやらないとは何事かっ!』と立腹されまして……」
「はぁ」
「どうやってしたら式見蛍は喜ぶのかと訊ねたところ、父は、自信を持ってこうおっしゃったのです。『萌えが嫌いな男子などおらん! 萌えさせろ、深螺! 式見蛍を、萌やして萌やして、萌やしつくしてしまえー!』……と」
「やっぱり、またですか……」
「あ、こうもおっしゃいました。『母さんは素晴らしかったぞ。パッションが溢れて止まらなかったもんだ。萌え、どころか蕩れだった』」
「蕩れ、ですか」
「ええ、蕩れ、です」
 呆れて嘆息すると共に、ゆっくりと中腰になり、深螺さんにさらに近づく。いまさらながらに、自分の服装がトランクス一枚だったことに気付く。……好都合じゃないか。
 目の前の深螺さんを今一度見る。彼女……本当に制服だった。漫画で見るような深い緑の制服に、89式5.56mm小銃。頭に帽子。そして、中身は無表情で冷たい眼の白髪少女。彼女は近づいた僕に向かって、抑揚の無い声で告げてくる。
「いきなりですか、式見蛍」
「いきなりです、深螺さん」
「そうですか」
 そう言って、深螺さんは後ろに下がった。
「……どうして小銃を構えていらっしゃるのでしょうか」
「いえ、身の危険を感じましたので」
「そうですか」
「はい」
「…………」
「む。追い詰められました」
「そりゃ、狭い部屋ですから」
「あ」
「これは没収です」
 深螺さんの手から小銃を取り上げる。うわっ、これ本物じゃないか。しかもレになってる。危なっ。アレセレクタもダットサイトも付いてるし。
「深螺さん……」
「式見、蛍……」


 つづく。