――本日営業

 マテゴ、こちらの続き。


2.
「深螺さん……」
「式見、蛍……」
 もう一度、お互いに呟いた名前は、さっきよりもはやく耳に入る。
「「ちょっと待っ」」
 ドン!
「「痛ったぁー!」」
 扉の向こうが騒がしい。って、今、すごい音だったけど。
「「何でぶつかるのよっ!」」
 バン!
「ケイ!」「兄さん!」
 ユウと傘だった。二人とも、しかめ面で、頭を押さえている。
「来ると思ってました」
 さて、今のはどちらが口にしたのだろう。まあ、どちらにしても心情は同じだ。ちょっと訳ありの二人を見ると、まだ痛みがひかないのか、頭を押さえたまま、言葉はなく、僕を睨みつけるばかりだ。
 うーん、彼女たちがいる限り、僕には平穏、まして誰かと二人きりなどという機会、それを活かせるときは来ないのかもしれない。
 や、だ、誰かと二人きりになったからといって、どうこうする、というわけではなく……、そ、そうなったらそうなったで、男としては……、も、もちろん、誰でもいいというわけではなくて、先輩やら深螺さんやら……、って何考えてるんだ、僕は。
「式見蛍……、そんなに私と……」
「えっ!? や、え?」
 ま、口に出ていた?
「ケイ!」「兄さん!」
「ちょ、ふ、二人とも、落ち着いて……」
「「ふふふ……」」
「わ、わかった、落ち着いていることはわかったから、そ……」
「「ふふふ……」」
「それ以上、近づかれるのは……」
「「ふふふ……」」
「わ、わわわ……」
「「ふふふ……」」
「ぎ、阿木gkじゃ;いあ;いぇwf;がsたw09gdぁ;hー!」


3.
 夢を見ていた。
 まるで、思春期の情欲そのもののような夢を。
 いくらなんでも、そんな、ミリタリーな感じで、罵ってくれることに、なんて性癖を吐露できるわけもなく、気づいてから今まで抱えてきたものがいよいよ顕在したのかと一喜一憂……いや喜びの方が当然大きいわけで、何ら遠慮することなく、そのまま流れに身を任せていたところ……あ。
「あ……」
「気が付きましたか?」
「し、深螺さん?」
「はい」
 目を開けると、一瞬の安堵の表情といつもの無表情が視界を埋めている。
「…………」
「…………」
「えーと……」
「…………」
「ち、近くないですか?」
「いえ、近づいているのです」
「は?」
「いきます」
「へ?」
 そして、彼女は目を瞑り……。
「んー」
 まるで金縛りに遭ったように身動きとれないまま、それとも身動きをとろうとしないのか、そのまま僕は彼女を受け入れ……。
「「「や、やっぱりダメェー!」」」
 バンッ!
 一人、増えていた。


4.
「《第一回優勝、ただし夢の中》かつ《夢見心地、ただし悪夢》かつ《夢から醒めた、ただし今度は現実で》み・た・い・なーっ!」
「…………」
「ということで」
「…………」
「私はここに、『第二回 後輩萌やし選手権』の開催を宣言する!」
「いつかはやると思ってました」
「さあ、後輩、準備はいいか? よし、いいな、面倒だし、二回目だからどういうものかの説明は省略してどんどんいくぞ」
「はぁ……」
「気になる人は、『マテリアルゴースト0』を買えばいい、と思います」
「だ、誰?」
「どうした後輩? 始めるぞ?」
「は、はい……」
「大丈夫だ。要望に応えて前回参加していなかった主要人物も参加しているから、心配は無用だ」
「はぁ……」
「いや、病気になる心配があるか……まあそうなったらそうなったで……ふふふ……」
「先輩?」
「よし、順番は……そうだな。後輩に知られないように、私たちだけで決めよう」
「はぁ……」
「ということで、後輩はこのまま待機だ。すぐに一番手が来るはずだから、期待して待っていろ」
「はぁ……」


5.
 一番手は誰だろう……。
 前回は先輩が最初だったから、いや、やはり、いやいや……。
 候補としては、ユウ、鈴音、先輩に深螺さん……傘もいるのかな……それに今回は……。
 しばらくの間、待っていると。
「ケーイ!」
 こ、この声は……そ、そうか、一番手は……ちょ、ちょっと待って……い、いきなり、とは……じゅ、準備ができて……。
 ……………………。
 …………。
 ……。


 ……。
 …………。
 ……………………。
「さて」
「…………」
「そろそろ結果発表といこうか、後輩」
「…………」
「で、誰が一番だった?」
「…………」
「? 後輩?」
「…………」
「ケイ?」
「…………」
「兄さん?」
「…………」
「蛍?」
「…………」
「式見蛍?」
「……い、いちばんは……」
 ごくっ。
「あ、あ……」
 っ!?
「あ……よ、ようじ……」
 はっ?
「マジでっ!? やったぜぇー!」
「ちょ、ちょっと待て、後輩! どういうことだ?」「ど、どうして!?」「って、そこどうして喜んでるのよ!」「うわーん」「お、男に……負けた?」
「どうして喜んでるかって、そりゃあ、出れたし、ケイkふぉむ……」
「そ、それ以上はダメだ! いろいろと逆転してるぞ!」「ちょっと、ケイ!」「兄さん!」「うわーん」「も、萌えの真理とはいったい……」
「…………」


 そして、僕は気を失った。
 厳密には、気を失っていた。
 一番、最初の段階で。


6.
 夢を見ていた。
 内容は覚えていないし思い出せない。というよりも思い出してはいけない気が満ちている。
 ただ一つ、覚えていることがある。
 式見蛍、ってマテゴの主人公じゃん。
 先輩やら先輩やら先輩やら妄想しすぎかなぁ。
 だって、僕の名前は―――


 了。



 お疲れ様でした。
 楽しみにしていた方がいらっしゃったら、申し訳ありません。時間も空いてしまい、話も短いです(既読でない人にはさっぱりかも)。終わりももう少し上手く第二話の方と繋げられればよかったのですが。