――本日営業

 また、突発的に、消えるか。

 第一話 「FN足りない」


 1

「く、くっ、くっ、くふっ、くふっ……」
 部屋に、好尚から巧笑のプロセスなどどうでも良いだろう。
「ふ、ふっ、ふっ、ふくっ、ふくっ……」
 箱の中に、思考から試行のサイクルなどどうでも良いだろう。
「つ、つっ、つっ、ついっ、ついっ……」
 目の前に、つと。
「ついにっ!」
 手に入れたもの。
 俺は、ニートになる。


 2

 という、夢を見た。
 顔を起こすと、第三次から二次災害も思い返し、鬱になる。
 拭き取ったものの、中身までは手が出せず、買い換えることになるに違いない。
 開くたびに新しいウィンドウになったりCtrl+DがCtrl+Vだったり、マウスは左クリックでCtrl+Aだったりスクロールで文字サイズが変わったり、電子辞書は鋭角でないと電源がつかない、イヤホンはモノラルだったりステレオだったり、何だこのツン具合。
 手が当たり、零れる。持ち直して、零れる。慌てて、倒す。
 倒れたコップに目を向けながら、音だけを出す。
 自分のわがままな素人さに、辟易したまま、日が暮れる。


 3

「くす、くす、くす、くす、くす……」
 全身を一色に染め、繰り出す音に混じる音が聞こえるだろう。
「くす、くす、くす、くす、くす……」
 生み出す結果、止まない音にそれ以外の何が含まれているだろう。
「くす、くす、くす、くす、くす……」
 痕跡、ふい。
「くす、くす、くす、くす、くす……」
 消えて行くもの。
 俺は、ティーンになる。


 4

 と、彼女はずっと笑って見ていた。
 体を起こすと、一時から一時を妄想し、躁になる。
 提供されたものの、中身を触れられず、いられないに違いない。
 
 夜が明け、空が空け、扉が開く。
 突き抜けるほど甘く、断ち切るほどまろやかで、堕ちていく君を、ずっと笑っていた―――


「いいか?」
「ああ」
 再生されたビジョンに、聞いた内容を理解したことを実感する。訊きたいことは、今のところない。
「外に出なきゃいけない?」
「その質問に意味はあるのか?」
「さぁ? 意味などあってないようなものだよ。人それぞれ、」
「なら訊くな」
「じゃあ、さよなら」
「お前なぁ、せめて、もう少しくらい、こう、親交を、」
「深める必要があるの?」
「……ない、な」
「じゃあ、さよなら」
「いや、でもな、」
「さよなら」
「そんなこと言わな、」
「さよなら」
「な、なぁ、」
「さよなら」
「…………」
「さよなら」
「はぁ……」
「さよなら」
「分かったよ」
「さよなら」
「じゃあな」
「さよなら」
「…………」
「またね」
「ああ、またな」
 
 さて、今回、提供された問題は、巷の巷を襲う、変態をどうにかして欲しい、ということだ。
 それでは、その変態を追っていこう。始まりは、出逢いから。


 5

 びゃんどくのほおばるこえがみにしみる―――


「魔女?」
「そう、魔女」
「へぇ、初めて見た。いる、っていうのは聞いてたけど」
「初めて見た、感想は?」
「そうだな……」
「…………」
「期待通りかな」
「そう?」
「ああ、俺の目に狂いはなかった」
「そう」
「だから、つまらない、と」
「そう?」
「ああ」
「おもしろく、して欲しい?」
「できるなら」
「いいよ」


 りゅあれるのあるくらやみがみにちる―――


「ようこそ、魔女のお茶会へ。これから貴方には、私が、でき得る限りの最高のおもてなしをご用意しております。ここに、忘れられない、素晴らしい体験を約束します。魔女の誓約は、命と同等です。もし、違うようでしたら、私をご自由にする権利が貴方には与えられます。犯すも殺すも食すも貴方次第。それでは、改めて、ようこそ。夢の世界をお楽しみください」

 ――――――――――――――――――

 という、夢を見た。
 そして、俺は、全身タイツになった。
 そのすっきりしたさま、子供の遊び心のままに、俺は、変態になった、らしい。少なくとも、自分では変態だとは思っていないが、周囲はそう思っているらしい。この前、テレビ局も取材に来たくらいだから、知名度も相当なものになり、以前にも増して、そのような声が耳に入る機会が多くなった。悲劇でさえ、客寄せのネタに過ぎないのだから、喜劇がそうでないはずがない、ということだろうか、みんな一様に、おもしろがっている、と勘違いしそうなくらい、老若男女、職業問わず、どこもかしこも俺一色だ。街中を闊歩すれば、振り返ってまで、向けられる好奇の目。淡白な人など、この世に存在しないことを、俺は身をもって実感している。ああ、何と稀有なことだろう。一夏の体験のように、粗雑さの中に、甘美な面を当たり前に含んでいる。これが、ツンデレ、というやつか。ますます、新たな世界が広がっていく喜びを味わうことのできる俺は、幸せ以外の何ものでもない。例え、滞ってしまっても、それさえ、これからの布石、と捉えることができるだろう。
 ただ、一つ、難点がある。脱げないやらそういうことではない。顔がオープンなことでもない。足りないものがあるんだ。いくら、対称よりも非対称、完璧よりも不完全を求めるといっても、これを許容できようか、いやできるはずがない。観測したからといって、そうなるものでもないし、さらに別の領域に臨む必要がある、ということだろうか。しかし、可及的速やかに改善されるべきこの時効を持たない事項の解決方法を、誰か俺に示してくれないだろうか。
 この、足りない、素な、数を、俺に、ください。
 でこは、恥ずかしい。


 6

 さて、始まりは、こんな感じだ。これからの展開は、まだ見ぬ先に。
 落ち着くやらふとやらランタンの導くままに。