――本日営業

「助けてくれ、おい、みんな!」そう叫んだとき、私はもう宙に浮いていた。まだそのときは、級友のさし出す手も、大声に喚いてあけた口も、はっきりと見えたが、次の瞬間、私は空中にもんどり打ち、そのままみごとな垂直線を描いてぐんぐんと上昇した。早くも屋根裏部屋がはるか足元に見下ろせた。一気に舞い上がりながら、私は空想の目に思い描いた――クラスメイトたちが手を高々と挙げている、夢中で指さしている、先生を呼んでいる――「先生、たいへんだ、シムチォが飛んだよ!」
 先生はめがねの目で振り返る。静かに窓際までゆき、手を凝らして遠方に目を凝らす。だが、もはやその視界に私はなかった。枯葉色の空のぼやけた照り返しのなかの先生の顔が羊皮紙の色に蒼ざめた。「名簿から削除しなくちゃな」――彼は苦々しい表情で呟き、椅子に戻った。私のほうは高く高く舞い上がってゆく――見知らぬ黄色な秋の空中へと。

 移動時間を費やし、読了。本当、教科書(国語の教科書なんてのを用意するなら)向きだ、と思う。
 第一短編集半ばを過ぎて、登場人物の区別やら関係がはっきり。
 第一短編集よりも第二短編集の方がおもしろいのが多いかな。前者からは「疾風」、後者からは「書物」、「天才的な時代」、「七月の夜」、「砂時計サナトリウム」、「エヂオ」、「年金暮らし」、「秋」、「彗星」、「祖国」が特に、内容やら文章表現やら、印象的。「年金暮らし」なんかタイトルからも作品の入りからも予測できない展開で、どうしてこんな風になるのか、と不思議でおもしろいし、ラストもやばい。