『マドカの科学研 ゾンビ先生、母校に帰る』

「朝一番で愚かな人間どもに説教してやるのは、いい気分だね」
「説教どころの騒ぎじゃないでしょう……あの親子、家庭崩壊じゃないですか……」
「あんな身勝手な親が築く家庭など、いずれ離婚するか子供がグレるかして家庭崩壊するよ。再出発は、早いほうがいい」
「まあ、ああいう親が〈モンスターペアレント〉になるんでしょうけど……」
「宇隅、日本語は正しく使いなさい。メディアや有識者はなにかと耳当たりの好い造語で誤魔化すが、愚かな人間どもに曖昧な表現は通じない。ハッキリ言ってやるのが親切というものだ。モンスターペアレントは『馬鹿親』が正解だし、ニートは『穀潰し』、赤ちゃんポストは『子捨て箱』と正確に表現すべきよ」


 名も知れぬ家庭の平和を犠牲に、人類は今朝、滅亡を免れたのかもしれない。


「井佐原窓華め、詭弁もいいところだわ」袖の階段を経由して、エイリアン先輩がステージに上がって来た。「でも、おかげで生徒たちの動揺が収まった。しかも望み得る最良の結果で。彼女は変わったね。人を騒がせ、陥れるばかりの人間だと思ってたけど」
「事実、人を騒がせ、陥れて喜んでいますけど。現在進行形で」
「でも、以前は〈誰か〉のために〈何か〉をすることなんてなかった……宇隅君、君と出会ってから、窓華は変わったのかもしれないわね」


 多分窓華は、照れているのだろう。「誰かを助ける」という慣れない行為をしたため、「冷徹であれ」と望む彼女の感情にギャップが生じ、それを埋めるために自分を虐め、他者を嘆き、世を憎むのだろう……そんな彼女は、どこか可愛らしく見えた……などと考えている間に、何を思ったか窓華はセーラー服の上にはおった白衣のポケットから例の金属の塊――携帯焼夷弾――を出し、起爆リングに指をかけた。
「何もかも嫌になった! いっそ自害してやるっ!!」


「宇隅……ちょっとカッコイイじゃない」
 思わず周囲を見回した。お世辞にも僕を「カッコイイ」などと、窓華が言うとは考えられなかった。彼女は気まずそうに口を「へ」の字に曲げ、得意の罵倒を始めた。
「……カッコイイって言っても、チョットだからね、ほんのチョット! この雨粒よりも遥かに小さい、限り無くゼロに近い僅かな質量よ!!」
 ほんの僅かな質量でも、対消滅反応を発生させれば膨大なエネルギーに変換できるという。しかし、僕の"男としてのカッコよさ"を完全に解放するために必要な反物質は、残念ながら未確認だ。

 窓華さんは、どんだけー、と。

「だからあの〈スカイ・フィッシュ〉はね、私たちの復活と再会を祝福する大宇宙の守護神からのメッセージなのよ」
「スカイ・フィッシュの正体が、ビデオに映り込んだハエによるモーション・ドップラーだなどとまことしやかに言われてるけど、それは超古代宇宙文明を信じようとしない学者たちの陰謀よ。耳を傾けてはいけないわ……ねえ聴いてる、宇隅君?」


 (外見は完璧な美少女だけに、勿体ない! 資源保護団体から糾弾されそうなほど、モッタイナイ!!)

「……な、何してんです?」
「宇隅、ボケッと突っ立ってる場合か! 『ゆとり女教師』の後姿には、跪いて十字を切るのが鉄の掟だろ!!」
「あ! さてはおまえ、あのDVD見てねーな!?」

 ほんと、めちゃくちゃおもしろいッ! これ、変ラノに入れたかったんだけどなぁ。某ランキングにも入ってないですね。うーん、色んな理論、疑似科学的な話なんかも出てくるけど、主人公の口からも語られる、というより主人公が率先して語るので、リーダビリティは全く損なわれず、舞台も高校なので、普段新書に手を出さない方も、十二分に楽しめる、と思います。
 ↑のような会話やら地の文やら主人公の口に出さないツッコミやらもシャレが利いてて、章題も扉絵の表現もひねってあっておもしろかった。